制作会社やコンサルティング会社が専門性を打ち出そうとすると、よく出る不安があります。「得意分野を絞ったら、それ以外の相談が来なくなるのではないか」というものです。
この不安は、表に出す専門性と、実際に受ける仕事の範囲を同じものとして考えると生まれます。顧客が最初に理解する入口は狭く、課題を聞いた後の対応範囲は広くて構いません。本記事では、専門性を会社の制限ではなく、相談先を選ぶ手がかりとして設計する方法を整理します。
専門性は、業界名だけではない
「製造業に強い」「SaaSに特化」といった業界軸は、専門性を伝える代表的な方法です。ただし、専門性にはほかの絞り方もあります。
顧客の問題
新規事業の価値が伝わらない、採用候補者が仕事内容を理解できない、営業資料ごとに説明がずれる。
相手の役割
経営者、事業責任者、広報、採用担当など、誰の判断を前へ進めるかを定める。
仕事の方法
取材編集、ワークショップ、プロトタイプ、データ分析など、再現できる進め方を示す。
事業の段階
立ち上げ、成長、統合、刷新など、支援が必要になる時期を明らかにする。
業界を一つに限定できない会社でも、「複雑な事業を、顧客が比較できる言葉へ変える」のように、問題と方法で専門性をつくれます。逆に業界を限定しても、顧客のどの問題を扱うかが曖昧なら、比較しやすい説明にはなりません。
高成長企業も、一つの軸だけで絞ってはいない
専門サービス企業1,000社超を対象にしたHingeの2018年調査では、高成長企業は、特定サービス、特定の問題、特定の役割、技術活用など複数の軸で専門性を示す傾向が報告されています。一方、業界だけへの特化は非成長企業のほうが高いという結果でした。
- 特定サービス 33.7%/25.5%
- 特定の問題 33.7%/19.6%
- 特定の役割 27.7%/15.7%
- 技術活用 18.3%/11.8%
- 業界特化 28.9%/35.3%
- 一つの軸の優劣を証明する調査ではない
- 2018年の海外専門サービス企業が対象
- 現在の自社顧客での検証が必要
この調査から「業界特化は避けるべき」とは言えません。読み取れるのは、専門性を業界名だけで考えず、問題、相手、方法との組み合わせで検討できるということです。
絞るのは、相談の入口である
専門性を明確にする目的は、受注できる案件を機械的に減らすことではありません。顧客が「自分の課題に関係がある」と判断しやすくすることです。
- 優先して扱う問題
- 最初に相談する担当者
- 代表的な進め方
- 検証できる事例
- 隣接する制作物
- 運用や改善
- 協力会社との分担
- 個別条件に応じた例外
たとえば「採用広報の記事制作」を入口にしても、課題を聞くなかで採用コンセプト、採用サイト、動画、社内浸透が必要になる場合があります。入口を具体化したことと、複数の手段を提案することは矛盾しません。
受注範囲を4つに分ける
専門性を打ち出す前に、過去の案件と今後の相談を4つへ分類します。売上規模だけでなく、再現性、利益、顧客への価値、組織が学びたい方向を合わせて見ます。
中核と隣接は、サイトや営業資料で見せる対象です。学習領域は、経験者との協業や小さな試行から始めます。例外案件は受けても構いませんが、それを会社の代表的な強みとして発信すると、入口が再び曖昧になります。
「得意」を決める5つの質問
社内で人気のある仕事と、顧客が評価する仕事は一致しないことがあります。次の順番で、事実と意志を分けて確認します。
相談の起点
顧客は、どんな状況で最初に声をかけたか。
難所と判断
他社との違いが出たのは、制作物か、課題設定か、進め方か。
再現性
担当者が変わっても、同じ品質を目指せる工程や基準があるか。
事業性
適切な利益と期間を確保し、顧客にも説明できる価値があるか。
意志
今後も知見を蓄積し、責任を持って深めたい領域か。
5つがすべて高い仕事がすぐに見つかるとは限りません。その場合は、現時点で最も根拠のある仮説を一つ選び、90日など期限を決めて検証します。
専門性は、案件名ではなく検索語へ翻訳する
「ブランド戦略」「コンテンツ制作」のようなサービス名だけでは、検索する人の状況を十分に拾えません。顧客が調べる言葉は、発注前の困りごとに近いからです。
- 「新規事業 価値 伝わらない」のような問題の言葉
- 「採用サイト 制作会社 選び方」のような比較の言葉
- 「事例記事 書き方」のような実行の言葉
- 「BtoB ブランディング 進め方」のような方法の言葉
サービスページには、誰のどんな問題を扱うかを置きます。記事では、問題が起きる理由、選択肢、判断基準を詳しく扱います。実績紹介では、その判断基準が実務でどう使われたかを示します。同じ言葉を繰り返すのではなく、検索から相談までの役割を分けます。
90日で検証する
専門性は、宣言した時点では仮説です。次の変化を同じ期間で観察します。
流入
狙った問題に関する検索語で、サービスや記事へ来たか。
問い合わせ
相談文に、想定した状況や役割が含まれたか。
商談
説明にかかる時間、比較される相手、質問の内容が変わったか。
受注後
入口の約束と実際の支援内容に、無理なずれがなかったか。
問い合わせ件数が一時的に減っても、対象案件の比率や商談の理解が上がる場合があります。反対に件数だけ増えても、対象外の相談ばかりなら入口の言葉が広すぎます。単一の指標で成功と決めず、量と適合度を分けて見ます。
外部に頼む範囲
案件記録が整理され、顧客に選定理由を聞けるなら、専門性の仮説づくりは社内で進められます。外部支援が役立つのは、既存顧客への遠慮を外して比較したいとき、複数部署の言葉を一つの入口にまとめたいとき、コンセプトをWebや営業資料まで一貫して展開したいときです。
baluboでは、得意分野を狭い肩書に押し込めるのではなく、顧客の判断場面、事業の意志、実務で残せる証拠から整理します。そのうえで、入口の言葉と実際の対応範囲を分けて設計します。
まとめ
- 専門性は、業界だけでなく、問題、相手、方法、事業段階でも絞れる
- 表に出す相談の入口と、受注後の対応範囲は分けて考える
- 仕事を中核、隣接、学習、例外、協業、非対象へ分類する
- サービス名を、顧客が検索する問題や比較の言葉へ翻訳する
- 公開後は、流入、問い合わせ、商談、受注後の適合度で仮説を検証する
よくある質問
Q. 専門性を絞ると、既存顧客に頼まれている仕事を断る必要がありますか。
ありません。既存の関係で価値を出せる仕事は、隣接または例外として続けられます。ただし、その仕事を新規顧客向けの入口として強く見せるかは別に判断します。
Q. 業界特化と課題特化は、どちらがよいですか。
自社の知見と顧客の選び方によります。規制や商流の理解が成果を左右するなら業界軸が有効です。複数業界で同じ問題を解いているなら課題軸が合います。業界、問題、相手、方法を組み合わせることもできます。
Q. 新しい領域へ広げたいときは、専門性を変えるべきですか。
まず学習領域として小さく実践し、方法と証拠が残った段階で入口へ加えます。経験のない段階で「得意」と断定せず、現在の実績と目指す方向を分けて書きます。
データの出典
- Hinge Research Institute, High Growth Study 2018 Executive Summary(専門サービス企業1,000社超)
- Gartner, Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience(2024年調査、n=632)
※Hingeの調査は2018年の海外専門サービス企業を対象としています。現在の日本企業へ直接一般化せず、専門性の軸を考えるための参考として使用しています。



