メインコンテンツへスキップ
CONTENT MARKETING

マーケティングとは何か——歴史から学ぶ「売ること」との違い

文:balubo magazine編集部
約18分で読める

マーケティングとは、広告を出して商品を売ることではありません。誰のどんな課題を解き、価値をどう届け、選ばれ続ける状態をどうつくるかを考えて実行する仕事です。広告や営業は、その仕事を構成する手段の一部です。

マーケティングとは何か

日本マーケティング協会は2024年、マーケティングの定義を34年ぶりに改めました。新しい定義では、顧客や社会と価値を共につくること、価値を広く浸透させること、関係者との関係を育てることが重視されています。

34年ぶり
日本マーケティング協会がマーケティングの定義を刷新した間隔。販売中心ではなく、価値共創と関係性まで含む定義になった

この定義を、初めて担当する人の仕事に引き寄せると、マーケティングは次のように言い換えられます。

「売上をつくる活動」と説明されることもあります。間違いではありませんが、売上は結果です。売る前に、誰を顧客とするか、何を価値として提供するか、どこで知ってもらうかを決めます。購入後にも、期待に応え、継続や紹介につなげる仕事があります。

現在の米国マーケティング協会(AMA)の定義も、マーケティングを広告部門だけの仕事とは捉えていません。価値ある提供物をつくり、伝え、届け、交換するための活動・制度・プロセスと定義しています。対象も顧客だけではなく、取引先や社会まで含まれます。

この定義が広いのは、マーケティングの役割が歴史の中で変わってきたからです。

マーケティングの歴史をたどる

マーケティングは、昔から「顧客第一」だったわけではありません。何を市場の問題と考えるかが変わるたびに、扱う仕事も広がってきました。

マーケティングの射程が広がった6つの転換点
1

20世紀初頭——流通を研究する

大量生産と広域流通が進み、「作った物を、どう市場へ運ぶか」が経営課題になった。初期のマーケティングは、卸売、小売、価格形成、物流など、商品が生産者から消費者へ移る過程を主に扱った。

2

1930年代——販売活動を体系化する

1935年に採択されたAMAの初期定義は、商品・サービスを生産者から消費者へ流す事業活動を中心に置いた。顧客との価値共創より、すでに作られた物の流れを管理する発想が強かった。

3

1950〜60年代——市場を選び、施策を組む

供給が増え、同じ市場で競う商品が多くなると、「作れば売れる」前提が崩れた。市場細分化、マーケティング・ミックス、4Pが登場し、誰に何をどう届けるかを一体で設計する考え方が整った。

4

1970〜90年代——顧客と関係を見る

サービス産業と競争が拡大し、一回の取引だけでなく、顧客満足、継続、ブランド、リレーションシップが重視された。マーケティングは販促部門の仕事から、組織横断の顧客理解へ広がった。

5

2000年代——価値は一緒につくられる

商品に価値が内蔵され、企業が一方的に渡すという見方が問い直された。利用や対話の中で顧客と価値が生まれるという考え方が強まり、コミュニティや顧客参加も対象になった。

6

2020年代——社会との関係まで含める

デジタル接点、サブスクリプション、プラットフォームが広がり、取引後も関係が続くようになった。日本マーケティング協会の2024年定義も、顧客や社会との価値共創と、持続可能な関係を中心に置く。

物を運び売る仕事から、顧客ごとに価値を設計し、関係者と共につくる仕事へ広がった

1950年代の転換を象徴するのが、マーケティング・ミックスです。AMAの沿革によると、ハーバード大学のNeil Bordenは1953年のAMA会長講演で、需要へ影響する複数の手段を組み合わせる考え方を示しました。商品計画、価格、ブランド、流通、広告、販売員などを、料理人が材料を配合するように調整する発想です。

1960年、E. Jerome McCarthyはこの複雑な組み合わせをProduct、Price、Place、Promotionの4Pに整理しました。Philip Kotler自身も、AMAに寄せた回顧で、McCarthyが4Pを提案し、自分が普及に貢献したと説明しています。つまり、4Pはマーケティングの定義ではなく、企業が調整できる手段を管理するための道具でした。

2004年には、Stephen VargoとRobert Luschがサービス・ドミナント・ロジックを提唱しました。企業が完成した価値を顧客へ渡すのではなく、企業は価値の提案を行い、価値は顧客が利用する過程で生まれるという見方です。ソフトウェアでいえば、契約や納品だけで価値が確定するのではありません。現場で使われ、業務が変わって初めて価値になります。

歴史を通して変わっていない点もあります。マーケティングは、交換が成立する条件を整える仕事です。ただし、かつては商品の流通が中心だった条件が、現在は顧客理解、利用体験、関係性、社会への影響まで広がっています。

広告や営業との違い

マーケティング、営業、広告、ブランディングは、別々の部署名として使われるため混同されがちです。違いは、担当する範囲と時間軸にあります。

『売るための活動』と『選ばれる仕組み』の違い
販売・販促だけで考える
  • ×完成した商品をどう売るかから始める
  • ×今月の売上や反応を中心に見る
  • ×広告や営業の件数を増やす
  • ×購入した時点で活動が終わる
マーケティングとして考える
  • 誰の課題を解くかから始める
  • 認知から継続まで全体を見る
  • 商品・価格・届け方も設計する
  • 利用後の満足や紹介まで改善する

営業は、顧客と直接対話し、個別の条件を確認して契約を前へ進める仕事です。広告は、費用を払って特定の場所に情報を届ける手段です。ブランディングは、「この会社なら、こうしてくれる」という期待を相手の中に育てる活動です。

マーケティングは、それらを目的に沿って組み合わせます。営業が聞いた顧客の悩みは商品改善や記事企画に戻し、広告で得た反応は対象顧客の見直しに使います。詳しい違いはブランディングとは何かでも整理しています。

価値を届ける5つの仕事

マーケティングの業務は、施策名から覚えると全体を見失います。「SNS」「SEO」「展示会」は、いずれも手段です。先に仕事の流れを押さえると、各手段を使う理由が見えるようになります。

マーケティングを仕事の流れで捉える
1

市場と顧客を理解する

どんな企業や人が、どの状況で困っているかを調べる。顧客への取材、営業記録、検索データなどを使う。

2

提供する価値を決める

誰のどんな課題を、他の選択肢よりどう解決するかを定める。機能だけでなく、導入後の変化まで言葉にする。

3

商品と届け方を整える

商品・サービス、価格、販売方法、サポートを、選んだ顧客に合う形へ整える。

4

価値を伝える

広告、営業、Webサイト、記事、イベントなどを通じて、必要な相手に判断材料を届ける。

5

結果を学び直す

売上だけでなく、選ばれた理由、失注理由、継続状況を確認し、顧客理解と提供価値を更新する。

施策は、5つのどこを改善するために行うのかを決めてから選びます

大切なのは、この流れが一度で終わらないことです。顧客の課題も、競合の動きも変わります。仮説を立て、届け、反応から学び直す循環そのものがマーケティングです。

3C・STP・4Pの位置

マーケティングを学ぶと、3C、STP、4Pといった用語が出てきます。これらは別々の理論ではなく、仕事の異なる段階で使う整理道具です。

1

3C——状況を理解する

Customer(顧客・市場)、Competitor(競合)、Company(自社)を見ます。顧客だけ、自社だけに偏らず、選ばれる余地を探すための整理です。

2

STP——誰に何で選ばれるか

市場を分け、狙う顧客を選び、自社の立ち位置を定めます。「全員に良い商品」という曖昧さをなくします。

3

4P——価値の届け方を整える

Product(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(伝達)を一体で設計します。広告だけを変えても解けない課題を見つけます。

4

検証——実際の反応から学ぶ

問い合わせ、商談、受注、継続の結果を確認します。フレームワークで作った仮説を、顧客の行動で確かめる段階です。

フレームワークを埋めることが目的ではありません。会議の参加者が同じ順番で考え、見落としを発見するために使います。きれいな資料ができても、顧客の発言や行動で確かめられていなければ仮説のままです。

3C・STP・4Pは誰が作ったのか

これらの言葉は一人の研究者が一度に作った「公式手順」ではありません。異なる時代の問題を整理した考え方が、実務教育の中で一つの流れとして使われるようになったものです。

市場細分化の重要な起点は、Wendell R. Smithが1956年に発表した「Product Differentiation and Market Segmentation as Alternative Marketing Strategies」です。Smithは、市場を一枚岩と見て商品側の差を広く訴える方法と、需要の違いに応じて市場を分ける方法を、別の戦略として整理しました。

STPは、この市場細分化を実務の順序にしたものです。Segmentationで違いを発見し、Targetingで資源を集中する相手を選び、Positioningでその相手の選択肢の中に自社の意味をつくります。データを細かく分けることが目的ではありません。誰を選び、誰を選ばないかを決めるためのプロセスです。

3Cは顧客、競合、自社の関係から機会を見るための分析枠、4Pは選んだ市場へ提供する条件をそろえる実行枠です。したがって、3C、STP、4Pを順番に埋めても戦略になるとは限りません。顧客への取材や購買データがなければ、整った仮説ができるだけです。

BtoB企業の具体例

製造業向けの業務システムを販売する会社を例にします。「問い合わせを増やす」が課題に見えても、広告を増やすだけでは解決しない場合があります。

1

顧客を見直す

工場長、情報システム部、経営企画では、困りごとも判断基準も違います。最初に誰の課題を扱うかを決めます。

2

価値を言い換える

「高機能な管理画面」ではなく、「月末の集計を3日から半日に短縮する」のように、仕事の変化で伝えます。

3

判断材料を用意する

機能紹介だけでなく、導入事例、費用、移行方法、セキュリティ、社内稟議に使える資料をそろえます。

4

営業と学びを共有する

記事を読んだ人が商談で何を質問したか、なぜ失注したかを企画へ戻します。発信と営業を別々に運用しません。

この例では、記事制作は3番目の一部です。誰に何を伝えるかが決まっていないまま記事だけを増やすと、アクセスは集まっても商談にはつながりません。BtoB特有の考え方は、連載第2回のBtoBマーケティングとはで詳しく扱います。

最初に考える3つの問い

新任担当者が最初からすべての施策を設計する必要はありません。自社の状況を、次の3問で確認します。

1

誰の、どんな状況を変えるのか

業界や役職だけで終わらせず、何が起きたときに困り、どんな判断を迫られる人なのかを言葉にします。

2

なぜ自社が選ばれるのか

機能一覧ではなく、他の選択肢と比べたときの違いと、その違いを裏づける証拠を確認します。

3

次に何を知れば判断できるのか

認知した人、比較している人、社内稟議を進める人では必要な情報が違います。次の判断に不足している情報を探します。

答えが出ない項目は、担当者の能力不足ではありません。社内にある知見が、まだ共有できる言葉になっていない状態です。営業へのヒアリング、既存顧客への取材、問い合わせ内容の棚卸しから始めます。

成果をどう測るか

マーケティングの成果を売上だけで測ると、何を改善すべきか分かりません。売上は商品力、価格、営業活動、既存顧客、景気などの結果が合流する遅行指標だからです。一方、広告表示や記事PVだけを追うと、事業との距離が見えません。

1

市場理解

顧客取材数、失注理由の把握率、購買関与者の整理、重要な未解決課題など。仮説の根拠が増えたかを見る。

2

価値の伝達

非指名検索、想起、記事からの回遊、資料利用、営業で説明しやすくなったかなど。価値が理解されたかを見る。

3

検討の前進

対象企業からの問い合わせ、商談化率、検討期間、提案通過、関与部門の合意など。判断が進んだかを見る。

4

事業との接続

受注率、平均単価、継続率、利用拡大、紹介、顧客獲得コストなど。長期的に交換が続いているかを見る。

指標は、施策ではなく仮説と結びつけます。「比較記事がないため、担当者が社内説明できず商談が止まる」という仮説なら、PVよりも記事の営業送付、比較後の質問、提案通過を見ます。数字が動かなかった場合も、施策の失敗と即断せず、対象、価値、伝え方、導線のどこが外れていたかを分けて確認します。

発信へつなげる

マーケティングの全体像を確認したら、次は価値をどう情報として届けるかを考えます。コンテンツマーケティングとはでは、記事、動画、事例などを購買プロセスに沿って配置する方法を解説します。

社内だけで整理しにくいときは、商品名やコピーを決める前の対話が役立ちます。baluboは、顧客・競合・自社の情報を取材で掘り起こし、コンセプトから発信までをつなげます。

コンセプトから発信までの整理範囲
理解顧客・競合・自社の取材
定義価値・対象・立ち位置
設計メッセージと企画
制作記事・動画・資料
展開Web・営業資料
運用編集と進行管理
検証反応の確認
改善企画の更新
品質を左右する上流工程(関与推奨)部分的なご依頼もOK
途中工程からのご相談も可能ですが、上流の前提が曖昧な場合は先に整理します

まとめ

マーケティングは、完成した商品を広告で売る仕事から始まった概念ではありません。市場が広がり、供給が増え、顧客の選択肢と発言力が大きくなる中で、流通、商品、価格、顧客理解、関係性、価値共創へと扱う範囲を広げてきました。

営業、広告、SEO、SNSは重要ですが、いずれも手段です。その前に、誰のどんな状況を変えるのか、なぜ自社が選ばれるのか、相手が次に何を知れば判断できるのかを決めます。3C、STP、4Pは、その問いを分担して考えるための道具です。

最初の一歩は、新しい施策を増やすことではありません。最近の受注と失注を一件ずつ選び、「相手は何と比べ、何を価値だと判断したか」を営業と確認してください。そこに、自社のマーケティングを設計する事実があります。

よくある質問

マーケティングを一言で表すと何ですか

顧客と交換が成立し、その関係が続く条件をつくることです。現在は、顧客を理解し、価値を提案し、商品・価格・流通・伝達を整え、利用後の関係から学ぶところまで含みます。

マーケティングと営業はどちらが先ですか

組織上は前後に分かれていても、顧客から見れば一つの過程です。マーケティングが市場と価値の仮説をつくり、営業が個別の対話で確かめ、その学びを商品や発信へ戻します。どちらか一方が常に先という関係ではありません。

4Pだけ考えれば十分ですか

十分ではありません。4Pは企業側が調整する実行手段の整理です。誰のどんな需要を選ぶかが曖昧なまま4Pを決めると、商品、価格、販路、発信が別々の方向へ進みます。顧客・競合・自社の理解と、対象市場の選択を先に行います。

マーケティングは広告費のない中小企業にも必要ですか

必要です。広告を出さなくても、顧客の選択、提供価値、価格、営業方法、紹介、継続は設計できます。資源が少ない会社ほど、全員へ届けるのではなく、強みが効く顧客と状況を選ぶ意味があります。

マーケティング部門がない会社では誰が担いますか

経営、営業、商品開発、カスタマーサクセス、広報が分担して担っています。重要なのは部署名ではなく、顧客情報を集め、価値と施策を決め、結果を学び直す責任者と場があることです。


主な参考資料

※ 歴史上の区分は、学説や実務が一斉に切り替わった年代を示すものではありません。各時代に強まった主要な論点を、初学者向けに整理しています。

この記事はいかがでしたか?

参考になったら、ぜひシェアしてください

balubo magazine編集部

balubo magazine は、株式会社baluboが運営するコンテンツ編集のメディアです。BtoB企業のオウンドメディア運営、取材・編集、製造業の情報発信、AI検索時代のコンテンツ設計について、編集の現場で検証した知見を発信しています。記事はすべて編集部名義で企画・取材・執筆・編集しています。

メディアについて

選ばれる理由を、事業と言葉から設計しませんか?

ロゴやコピーだけでなく、顧客に抱いてほしい期待と、それを裏付ける事業・体験・発信を編集の視点から整理します。