ペルソナとは、調査や顧客データをもとに作る典型的な顧客像です。BtoBでは、架空の名前や趣味を細かく設定することが目的ではありません。勤務先の課題、購買での役割、判断基準、情報収集の状況を、企画に使える形で共有します。
ペルソナとは何か
Salesforceは、ペルソナを、商品やサービスの典型的な顧客・ユーザーを表した仮想の人物像と説明しています。重要なのは「仮想」でも、根拠まで想像で作るわけではないことです。
年齢、部署、役職だけでは、その人が何を知りたいかは分かりません。同じ広報部長でも、新しくオウンドメディアを立ち上げる人と、更新が止まったメディアを引き継いだ人では、検索する言葉も必要な情報も変わります。
ペルソナはどこから来たか
マーケティングには以前から、市場を共通の特徴で分けるセグメンテーションがありました。現在のペルソナの直接的な源流は、広告用の人物設定ではなく、ソフトウェアの設計判断を揃えるためにAlan Cooperが育てた手法です。
1980年代——Kathyを想定する
Cooperはプロジェクト管理ソフトを設計する際、実在の利用者との会話をもとに「Kathy」という人物を思い浮かべ、利用場面を演じながら設計した。
平均的ユーザーを疑う
利用者ごとの要望を足すほど製品が複雑になる。全員の平均ではなく、明確な目標を持つ一人へ最適化する考えが形になる。
1990年代——目標で分類する
Sagentの案件で利用者へ聞き取りを行い、目標、仕事、習熟度のパターンからChuck、Cynthia、Robを作った。これをCooperは最初のGoal-Directed Personasと説明する。
1998年——実務へ公開する
著書『The Inmates Are Running the Asylum』で、ペルソナをインタラクション設計の道具として紹介。ソフトウェア業界へ広がる。
2000年代——企業で運用する
Microsoftなど大規模な製品組織も、調査から複数の利用者像を作り、設計・開発の共通言語として用いるようになる。
現在——買い手理解へ応用する
マーケティングでは、製品利用者だけでなく、情報を探し、比較し、稟議を通す買い手の目標と行動を表す方法へ応用される。
Cooper本人の「The origin of personas」によると、原型のKathyは統計的な代表者ではありません。具体的な利用者を想定し、開発中の機能がその人の目標を助けるかを一貫して判断するための存在でした。
後のSagentの案件では、複数人へのインタビューから目標、業務、習熟度の明確なパターンを見つけています。完成した設計を「自分の意見」としてではなくChuck、Cynthia、Robの立場から説明すると、開発者も判断理由を共有しやすくなったとCooperは振り返っています。
この歴史から、ペルソナの本質が分かります。名前、顔写真、物語は、チームが判断対象を忘れないための表現です。中心にあるのは、調査で見つけた行動パターンと目標、そして「この機能・記事は誰の何を助けるか」という選択です。
ターゲットとの違い
ターゲットは、狙う市場や顧客層です。ペルソナは、その対象のなかで典型的な課題と行動を持つ人物像です。
- ×対象とする集団を示す
- ×業界・規模・地域・役職などで分ける
- ×市場規模や優先順位を判断する
- ×『製造業の広報担当者』など
- ○典型的な一人の状況を示す
- ○課題・役割・判断基準・行動を整理する
- ○メッセージや企画の判断に使う
- ○『更新停止した技術ブログを引き継いだ広報責任者』など
ターゲットを決めずにペルソナだけを作ると、市場として成立するかが見えません。ペルソナを作らずターゲットだけで企画すると、「BtoB企業の担当者向け」のように範囲が広くなり、内容がぼやけます。
両者は順番に使います。まず自社が価値を出しやすい企業群を選び、その企業内で、誰がどんな状況で判断するかをペルソナとして具体化します。
似た顧客モデルを分ける
「顧客像」と呼ばれる資料には、対象と使い道が異なるものがあります。混ぜると、企業の優先順位と個人向けメッセージを一枚で決めようとして破綻します。
| モデル | 何を表すか | 主な用途 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| セグメント | 共通条件を持つ市場・顧客群 | 市場選択、規模把握、優先順位 | 市場・顧客データ |
| ICP | 自社と適合しやすい企業の条件 | 営業・ABMの対象企業選定 | 受注、継続、収益性データ |
| ユーザーペルソナ | 製品を使う人の目標と行動 | 商品・UI・利用体験の設計 | 観察、利用者取材、行動データ |
| バイヤーペルソナ | 調査・比較・承認に関わる人の判断 | コンテンツ、営業資料、商談設計 | 購買者取材、商談・失注記録 |
| プロトペルソナ | 調査前の暫定的な顧客仮説 | 調査論点の整理、初期合意 | 社内知見。仮説表示が必要 |
BtoBでは、製品を日常的に使う人と、契約を推進する人が異なる場合があります。たとえば現場担当者は操作性を重視し、情報システム部門は安全性を確認し、決裁者は投資効果を見ます。一枚の「担当者ペルソナ」へ統合せず、今回の意思決定に必要なモデルを選びます。
BtoBは二層で考える
BtoBでは、個人だけを見ても購買を説明できません。会社としての条件と、その会社内での役割を分けます。
- 企業プロファイル:業界、従業員規模、事業モデル、地域、利用中の仕組み、成長段階など、自社サービスと相性のよい企業条件を示します。
- 業務上の課題:売上停滞、採用難、属人化、更新停止など、会社や部門が解こうとしている問題です。購入のきっかけになります。
- 購買上の役割:利用者、推進担当、専門確認者、決裁者などです。同じ会社でも、役割によって必要な情報が違います。
- 個人の判断状況:目標、評価指標、懸念、決裁権、情報収集方法、期限です。年齢や趣味より企画へ直接使えます。
例えば、記事制作サービスの対象を「従業員300名以上の製造業」と決めても、技術広報担当、マーケティング責任者、事業部長では目的が違います。技術広報担当は専門家の協力を得られるかを気にし、責任者は問い合わせとの関係を見ます。事業部長は投資の優先順位を判断します。
BtoBマーケティングとはで説明した通り、BtoBの購入は複数人で決まります。ペルソナは一人に絞って書きますが、一人だけで購買が完結する前提にはしません。
想像ではなく情報から作る
ペルソナの精度は、プロフィールの細かさではなく、根拠の質で決まります。社内の思い込みだけで作ると「自社に都合のよい顧客」になります。
既存顧客への取材
購入前の状況、検索した言葉、比較した方法、社内の関係者、選定理由、導入後の変化を聞きます。
営業・CSの記録
商談の質問、失注理由、導入時の障害、継続理由を集めます。顧客本人の発言と営業の解釈を分けます。
検索・サイトデータ
Search Consoleの検索語、よく読まれるページ、サービスページまでの移動を見ます。行動の事実を補います。
問い合わせ・資料
問い合わせ文、RFP、稟議資料、サポート記録から、顧客が使う言葉と確認項目を拾います。
一人の印象的な顧客だけで作ると、特殊な事情を一般化する危険があります。複数の顧客と営業記録を比べ、共通する課題と、条件によって変わる点を分けます。まだ顧客が少ない新規事業では、仮説と明記し、商談やインタビューのたびに更新します。
根拠の強さを混ぜない
ペルソナの各項目に、同じ確かさがあるとは限りません。顧客の発言、行動データ、社内の推測を分けて記録すると、議論が「その人物らしいか」ではなく「何を追加調査すべきか」に変わります。
観察した事実
問い合わせで使われた言葉、閲覧したページ、実際の承認工程など。出所と確認日を残します。
繰り返すパターン
複数顧客に共通した目標、質問、障害です。共通しない条件も併記します。
解釈した仮説
「失敗責任を恐れている」など、事実から導いた説明です。反証できる形で書きます。
記憶用の表現
仮名、写真、短い物語です。理解を助けますが、調査結果そのものとして扱いません。
顧客本人から具体的な判断場面を聞き出す方法は、読まれるインタビュー記事の構成と編集の技術で紹介している、仮説・深掘り・具体化の考え方を応用できます。
作成する6ステップ
利用目的を決める
記事企画、広告、商品改善など、ペルソナを使う意思決定を決める。
企業条件を絞る
成果が出ている顧客と出にくい顧客を比べ、業界、規模、課題などの条件を選ぶ。
購買関与者を並べる
利用者、推進者、専門確認者、決裁者を洗い出し、今回の企画で中心にする役割を選ぶ。
一次情報を集める
顧客取材、商談記録、検索データから、課題、きっかけ、判断基準、懸念を抽出する。
一枚にまとめる
事実、複数事例の共通点、仮説を区別し、チームが企画時に参照できる形にする。
実際の反応で更新する
記事への反応、商談の質問、失注理由を見て、古い前提や不要な項目を直す。
ペルソナ作成会議だけで項目を埋めないことが重要です。会議は、集めた情報を解釈し、企画に必要な焦点を決める場です。データがない項目は空欄か仮説にし、確認方法を決めます。
BtoBペルソナの項目
会社と部門
業界、規模、事業、部門の役割、現在の仕組み。個人の課題が生まれる背景を示します。
役割と目標
役職、担当業務、評価指標、購買での立場。何を成功と考えるかを示します。
課題ときっかけ
日常の困りごと、放置した影響、情報収集を始める出来事。検索意図の起点になります。
判断と障害
選定基準、懸念、予算、期限、決裁者、専門確認。検討を止める要因を示します。
情報行動
検索語、読む媒体、相談相手、信頼する根拠。形式と配信経路を選ぶ材料です。
必要なコンテンツ
課題理解、比較、稟議など各段階で必要な記事、事例、資料を仮置きします。
氏名、顔写真、趣味は、チームが人物を思い浮かべる助けになる場合だけ入れます。BtoBの記事企画では、決裁権、目標、懸念、情報行動のほうが優先度は高くなります。
失敗するペルソナ
- ×会議の想像だけで埋める
- ×年齢・家族・趣味を細かくする
- ×都合のよい理想顧客だけを書く
- ×購買関与者を一人にまとめる
- ×完成後に見直さない
- ○顧客発言と行動を根拠にする
- ○課題・役割・懸念を詳しくする
- ○対象外の条件も確認する
- ○役割ごとに必要情報を分ける
- ○商談とデータから更新する
特に危険なのは、複数の購買関与者を「平均的な担当者」へまとめることです。推進担当者の課題と決裁者の判断基準が混ざり、誰にも十分に届かないメッセージになります。中心人物を一人選び、他の関与者は関係図として整理します。
ペルソナにも限界がある
ペルソナは現実を圧縮したモデルです。少数の典型へ注目するため、頻度は低くても重大なニーズを持つ人、障害のある利用者、既存分類に当てはまらない人を見落とす危険があります。
- 典型像を性別、年齢、国籍の固定観念で補わない。
- 一つのペルソナを全顧客の代表だと考えない。
- 成約した顧客だけでなく、失注、解約、対象外の理由も確認する。
- アクセシビリティや法的要件を「少数だから」とペルソナ判断だけで外さない。
- 市場規模や優先順位は、ペルソナではなく定量データと企業戦略でも判断する。
ペルソナに書いていない人を無視するのではなく、どの意思決定を単純化するモデルかを明記します。モデルの外側にある重要な条件は、別の要件や調査として管理します。
コンテンツ企画に使う
ペルソナは資料として保管するためではなく、企画の選択肢を絞るために使います。
状況を一つ選ぶ
課題を認識した直後、比較中、稟議前など、記事を読む場面を決める。
問いを一つ選ぶ
その場面で最も強い疑問を、顧客が使う言葉で書く。
必要な根拠を選ぶ
定義、比較表、専門家の説明、導入事例、費用など、判断に必要な証拠を集める。
次の情報をつなぐ
読後に生まれる疑問を予測し、関連記事、資料、サービス情報へ内部リンクする。
誰がどの段階で何を知るかを複数の接点へ展開する方法は、次回のカスタマージャーニーとはで説明します。
取材から顧客像を作る
顧客像が社内の想像で割れている場合、資料づくりより取材が先です。既存顧客、営業、カスタマーサクセスの話を同じ質問で集め、共通点と違いを編集します。
まとめ
ペルソナは、架空の人物を精密に作る作業ではありません。顧客に関する証拠を集め、チームが同じ判断をするためのモデルへ編集する作業です。
その源流は、平均的なユーザーの要望を足して複雑になったソフトウェアを、特定の目標を持つ人へ向けて設計し直す試みにあります。BtoBへ応用するときも同じです。企業条件、購買上の役割、目標、判断の障害を分け、事実・パターン・仮説の強さを示します。項目を増やすより、「この人の、どの判断を助けるのか」に答えられる状態が重要です。
よくある質問
ペルソナは何人作るべきですか
決まった人数はありません。最初は、重要な商品と意思決定に関わる中心人物を一人選びます。必要な判断基準が明確に違うと確認できた場合だけ分けます。人数を増やすほど、企画の優先順位はつけにくくなります。
実在の顧客一人をペルソナにしてよいですか
出発点にはできますが、その人固有の事情を典型だと誤認する危険があります。複数の取材、商談記録、行動データを比べ、繰り返すパターンを抽出します。実在人物の個人情報をそのまま共有しない配慮も必要です。
名前や顔写真は必要ですか
必須ではありません。チームが目標と状況を思い出す助けになる場合に使います。写真や趣味が先に印象を作り、根拠のない固定観念を強めるなら省きます。
新規事業で顧客がいない場合はどうしますか
営業、業界専門家、想定利用者への課題インタビューからプロトペルソナを作ります。事実ではなく仮説である項目を明示し、検証する質問と期限を決めます。
ペルソナはいつ更新しますか
新しい顧客層への展開、商品・価格の変更、購買関与者の変化があったときに見直します。定期的には、商談質問、失注理由、利用行動を四半期などの区切りで確認し、判断に使われない項目を減らします。
主な参考資料
- Alan Cooper「The origin of personas」(Cooper Journal掲載記事の保存版)
- John Pruitt, Jonathan Grudin「Personas: Practice and Theory」(Microsoft Research)
- Salesforce Japan「ペルソナとは?マーケティングにおける活用方法や作り方、具体例」(2026年更新)
- ワンマーケティング「BtoB購買行動調査レポート」(2025年、n=600)
※ ペルソナの歴史には、Cooper本人による回顧と後年の研究を用いています。記事内の人物例は、BtoBでの考え方を説明するための仮想例です。実在の顧客事例ではありません。
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